EN
Follow us
twitter facebook
資料請求

CLUB TRAIN 2023 欧洲杯比赛投注_欧洲杯外围app-竞猜|官网

石川琢也(アート?ディレクター/IAMAS博士後期課程2年?京都芸術大学専門講師)

2023年1月14日にCLUB TRAIN 2023「ネオ天国」が開催された。IAMASの平林真実教授が率いる、音楽体験の拡張を研究?実践するNxPC.Labがこの企画運営を担当した。主催は樽見鉄道株式会社であり、連携イベントの開催は今回で11回目となる。私自身、2015年にIAMASの協力のもと、樽見鉄道にて音楽イベントを主催し、また2017年には、当時務めていた山口情報芸術センター[YCAM]においても、JR西日本と連携し「BoomboxTRIP in TRAIN」という名称のイベントを開催した。そうした事例も踏まえて本欧洲杯比赛投注_欧洲杯外围app-竞猜|官网を書くことにする。

CLUB TRAIN 2023「ネオ天国」2023年1月14日(写真:IAMAS)

まずイベントの欧洲杯比赛投注_欧洲杯外围app-竞猜|官网の前に、CLUB TRAIN (クラブトレイン)の過去の事例についても振り返っておこう。IAMASと樽見鉄道の関係は、2012年にIAMASの「メディア?地域?鉄道プロジェクト」※1 の取り組みとして始まった。このプロジェクトは岐阜の長良川鉄道、樽見鉄道、明知鉄道、養老鉄道のローカル鉄道を一つの空間メディア、またはメディア空間としてとらえたものであり、プロジェクト最初の施策は2012年8月26日に金子智太郎、城一裕によって開催された「生成音楽ワークショップ第7回:ジョン?ケージ《失われた沈黙を求めて》 」※2 である。これは1978年に、ボローニャ音楽祭の一環として開催されたジョン?ケージ「失われた沈黙を求めて(プリペアド?トレイン)」の再演であり、車両に2台のスピーカーを置き、1台を車両下部に設置したマイクロフォンに、もう1台を運転席付近に設置したマイクロフォンにつなぎ、スピーカーにそれらの車両音を流すという内容だった。
その後、岐阜の名産を再編集した「柿カフェトレイン」、そして、ARを搭載した「クリスマス?トレイン」が開催され、2013年12月/2014年6月に招待制の実験イベントとして「クラブトレイン」を実施している。ここで現在に至るクラブトレインの原型となる車両内のクラブ化、DJとVJ、及びパフォーマンスにより空間を音楽で満たす様式が定まっていった。その後、2015年8月には長良川鉄道と連携し、関?北濃間を運行する「奥美濃ソウルトレイン」※3 を開催。このイベントでは、郡上発の下駄ブランド「郡上木履」の協力を受け、オリジナルの踊り下駄「蛍駄(KETTA)」の開発もしている。これは、地面を踏む圧力で内臓したライトが発光するものだった。また2015年11月には石川が企画者となり「TRAINSPOTTING」※4 を開催。2016年、2018年と続き、2019年1月の9回目では、IAMAS卒業生であり、世界的メディアアーティストとして活躍している真鍋大度もゲスト参加し※5 、第10回目となる2020年にはOTAIRECORDと連携し、ダンサーの招聘も行った。※6

本イベントは、これまでに10回に渡って開催され、毎回、新たなIAMAS在校生による演出とブッキングの技量がひとつの見せ所となっている。今回のイベントにおいて特筆すべき点は、出演者はIAMAS在校生の、Ryu Ishizuka、作業用BGM、JACKSON Kaki に加えて、岐阜を拠点に活躍するラッパーの裂固(レッコ)※7 や、DJ MOTIVE※8 がゲスト招聘されたことであろう。過去のイベントでは遠方からゲストを招くことが多かったが、こうした岐阜で活動するアーティストを招聘することはクラブトレインが一回りしたことを示しているのかもしれない。裂固は岐阜県岐阜市柳ヶ瀬エリア発祥のライムクルー「HIKIGANE SOUND」のメンバーであり、今ではもう伝説化しているフリースタイルダンジョンの2代目モンスターとしても活躍。そして、2023年1月22日に開催された「KOK 2022 GRAND CHAMPIONSHIP FINAL」にて見事優勝を勝ち取った今では日本を代表するラッパーである。一方DJ MOTIVEは、岐阜市内でカフェレストラン「alffo」を経営する傍らトラックメイカー/プロデューサーとして活動し、2022年は近藤等則とのコラボレーションアルバムをリリースするなど岐阜の音楽カルチャーを支えてきた立役者である。

次に当日のイベントスケジュールを振り返ってみる。

17:50 –[受付]大垣駅 樽見鉄道乗り口
18:33 – 大垣駅発
19:34 – 樽見駅着
(樽見駅にて休憩)
20:16 – 樽見駅発
21:18 – 大垣駅着

本巣駅にて仕込みを終えた車両は乗客を乗せるため、大垣駅に向かう。乗り口には、乗車を心待ちにした来場者たちがすでに待ち構えており、これから始まる2時間程度の特別な時間への嬉々とした期待が表情から読み取ることができた。

大垣駅ホームの様子(写真:石川琢也)

30名ほどの乗客が乗り込み、大垣駅を発車すると、車両アナウンスが流れる。アナウンスの声は、普段の電車で聞く声質と同等ではあるものの、非日常と化した車内空間においては、演出としての意味が含まれている。数分ほど走行したところで、車内の照明が落ち、仕込みのライトが点灯する。このシンプルな演出でさえ、車両という空間においてはインパクトのある出来事であり、車内一同、乗客は歓声をあげる。クラブトレインには、何度も乗車している私も、やはりこの瞬間は気持ちが高揚する。

車内の照明演出(写真:石川琢也)

オープニングアクトは裂固とDJ MOTIVEである。車両先頭での裂固のパフォーマンスが始まるとともに、乗客たちは前方に押し寄せた。裂固は額に汗がにじむほど声を絞り出し、窓ガラスが曇るほどの迫真のパフォーマンスを繰り広げた。ステージを終えると、裂固はその日に別のイベント出演があったため、織部駅にて下車。こうした途中でアーティストが乗り入れ、下車するパフォーマンスはまだまだ余白がありそうである。その後、裂固の熱量を引き継いだDJ MOTIVEによる走行車両との一体感を感じさせる卓越したDJが続き、あっという間に往路が終了となった。

裂固(写真:石川琢也)
DJ MOTIVE(写真:石川琢也)

本巣駅での休憩中にあることに気づく。貸し切り車両の後ろにはもう1車両が接続されており、そこでは日常的な利用の乗客たちが乗車しているのだ。この扉1枚にどのような空間の差異があるのだろうか。クラブトレインに乗車していると、スタッフ、乗客たちとの共犯関係のような感情が芽生えていく。それは外からクラブトレイン車内を物珍しそうな視線が向けられることにより、さらに強化されていく。そうした車内一体がクルーのような状態へ変化していき、復路へと向かう。

本巣駅ホームの様子(写真:IAMAS)

復路ではIAMAS在学生達のパフォーマンスがRyu Ishizuka、作業用BGM、JACKSON Kakiとそれぞれ続く。Ryu Ishizukaによるホースを口にくわえてモジュレートするトリッキーなパフォーマンスから始まり、作業用BGMによる車内の振動を用いて、スクリーンに触れることで演奏するパフォーマンスは、プリミティブながらも印象深かった。最後には、国内外でもDJ/VJとして活躍するJACKSON Kakiによる高密度でハイテンションのDJが行われた。終着駅に着く頃には乗客たちはすっかり緊張感から開放され、電車の振動による心地よさに身を委ねて、うっとりした様子だった。

Ryu Ishizuka(写真:IAMAS)
作業用BGM(写真:IAMAS)
JACKSON Kaki(写真:IAMAS)

こうしてCLUB TRAIN 2023は終了した。乗客たちは大垣駅に着いてホームに降りると、そこには普段となんら変わらない風景があることに気づく。車両内にのみ許された祝祭感をしばし身体に残したまま、それぞれが帰路につく。おそらく帰路の手段が電車の乗客は、普段の車両を眺めながら鉄道の余白について思いを馳せていたのではないだろうか。

(写真:IAMAS)

改めて、クラブトレインのクリエイティビティについて考察してみたい。私はIAMAS卒業後、山口情報芸術センター[YCAM]にて務めていた2017年にJRの協力のもと「Boombox TRIP」※9 という名称のイベントを開催し、その企画制作を務めた。その元となったのはこのクラブトレインである。その両方を比較してみると、その最大の差異は会社の対応だったように思う。当初、樽見鉄道の寛容な対応に慣れていたため、JRとのやり取りは大変骨の折れるものであった。まず企画を持ち込むにあたって、懇意になった市議会議員にお願いし、窓口を作ってもらい、その後JRの「旅客鉄道株式会社及び日本貨物鉄道株式会社に関する法律」を照らし合わせながら可能な条件を探った。電源の持ち込み、スピーカー、照明、PAのセットなど設営の準備時間については、こちらの希望する時間が打ち合わせの度に削られていき、最終的にはわずか1時間という厳しい条件となっていった。万全を期しているものの何かが起きると中止になる可能性を抱えた状態で、「なにかあったらこりゃ責任ものだなぁ」と腹を括ったことを思い出す。アーティストの素晴らしいパフォーマンスもあり無事にイベントを終えたのだが、いろいろな意味でスペクタル感の高い内容であった。

Boombox TRIP in TRAIN (2017)

上記を含め、クリエイティブ?コモンズの提唱者でもあるローレンス?レッシグの視座を用いて考察を進めたい。レッシグは、著書「CODE」において、社会環境のなかで、人がどのように行動が制約されているのかについて、Law(法律)Norm(規範)Market(市場)Architecture(構造)の4つのモードをあげている。クラブカルチャーの研究者である太田健二はこの理論をライブハウスや音楽ベニューといった場所に援用を試みているが、※10 今回はクラブトレインに置き換えてみる。まずLaw(法律)においては、自身のYCAMでのイベントのように、鉄道における法律の上限を探ることが行われた。また、Norm(規範)は車内マナーにおいて、一時的な踊る(飲む)という行為が承認されており、Market(市場)は乗車料金を払うのではなく、場所をレンタルするという、目的の変容がおこなわれている。最後に、Architecture(構造)は音響設備の設置、大きな音を出せる環境への変化、またVJ機器の設置や、初回での「プリペアド?トレイン」のように、車両下にマイクを仕込むといった、構造的な改変可能性を毎回クラブトレインでは探っているように思える。そこでは手すりさえ、別の機能を宿しているのかもしれない。

(写真:石川琢也)

詳細な分析は字数の関係で割愛するが、こうした4つの規制に対するモードの変化は同時に、関係者?乗客の電車という公共性に対する意識を緩やかに解きほぐす。特に乗車中に印象的だったのが、乗車員の存在である。イベントを無事に終わらせるという緊張感と同時に、喜びと発見というような意味が含まれていたように感じる。普段は、お客の安全安心を第一にリスク管理を行う人々が、クラブトレインにおいては、鉄道の公共性に対する自身たちが抱える4つのモードの融解がおきているようだった。これまで11回も実現できているのは、そうした期待の現れといってよいだろう。その意味で、クラブトレインの一番のクリエイティビティは樽見鉄道との協力と信頼の関係、そして次なるネゴシエーションとも言える。願わくば、次なるクラブトレインにおいては、樽見鉄道側も想定を少し超える提案を投げかけてほしい。端的にいうなら「ちょっと難しいかもしれませんがやれる方法を考えてみます」といった局面の重要性である。それは、これまで築いた関係の精算ではなく、新たな関係性の構築のための試みとして。

NxPC.Lab 記念写真(写真:IAMAS)


 

参考資料

※1 IAMAS×岐阜ローカル鉄道「メディア?地域?鉄道プロジェクト」

※2 アーカイブ:生成音楽ワークショップ第7回 「失われた沈黙を求めて(プリペアド?トレイン)」

※3 のどかな田園をクラブ列車が走る!光を放つ下駄でクラブミックス盆踊り。「奥美濃ソウルトレイン」コロカルニュース

※4 走る電車内がライブ空間に!35名限定のプレミアムなライブイベント「TRAINSPOTTING」開催。ポストロックバンド?NETWORKSも登場! | LIVERARY

※5 CLUB TRAIN 2019 欧洲杯比赛投注_欧洲杯外围app-竞猜|官网 | 欧洲杯比赛投注_欧洲杯外围app-竞猜|官网 [IAMAS]

※6 IAMAS内の研究機関と岐阜のローカル線?樽見鉄道がコラボ。 | LIVERARY

※7 裂固(レッコ)

※8 DJ MOTIVE

※9 Boombox TRIP in TRAIN|山口情報芸術センター[YCAM]

※10 クラブカルチャーの文化社会学的考察 : メディア利用と空間利用という観点から.